⼦育て・育児

「何もさせてあげられない」と悩むママパパへ

特別なことより、日常を積み重ねる

夏休みや連休が明けると、子どもたちはいろいろな話を持ち帰ってきます。海に行った、おじいちゃんの家で虫を捕った、キャンプをした、海外に行った。それを聞いた子どもの様子から、「うちは何もさせてあげられなかった」と胸が痛む方は少なくありません。この記事では、旅行や習い事を増やさなくても体験の差を縮めていく方法を、日常の5つの習慣と、避けたい3つの行動に分けて紹介します。

普段の生活に戻れば、学校のあとは塾、スイミング、英語、サッカー、バレエ……。周囲の予定表はどんどん埋まっていきます。「小さいうちからやらせたほうがいい」という、もっともらしい言葉も耳に入ってきます。

一方で、共働きで連れて行く時間がない。習い事代は決して安くない。だから思うようにさせてあげられない。この二つのあいだで、静かに自分を責めている親御さんから、秋口にはよくご相談をいただきます。

まずお伝えしたいのは、この悩みは「家庭の努力不足」から生まれているのではない、ということです。そして、その差の埋め方は思っているよりも身近な日常のなかにあります。

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体験の差は、たしかにあります

まず事実を確認しておきます。公益社団法人チャンス・フォー・チルドレンが全国の小学生の保護者2,097人に行った「子どもの『体験格差』実態調査」(2023年)では、世帯年収300万円未満の家庭で、1年を通じて学校外の体験活動を何もしていない子どもが29.9%にのぼりました。一方で、世帯年収600万円以上の家庭では11.3%です。

つまり、体験の差は家庭の熱意ではなく、収入や時間といった条件によって生まれています。「うちだけができていない」わけではありません。ここを取り違えると、親の努力でどうにもならない部分まで自分の責任として抱え込むことになります。

同じ調査では、気になる結果も出ています。保護者自身が子どもの頃に体験活動をしていなかった場合、子どもも体験ゼロになる割合が50.4%にのぼる一方、保護者に体験がある場合は17.4%にとどまりました。体験の差は、世代をまたいで引き継がれやすいということです。

ただし、これは「引き継がれてしまう」という話であると同時に、親が意識を向ければ流れを変えられる、という希望でもあります。

効果があるのは、豪華さではありません

では、体験は子どもに何をもたらすのでしょうか。

文部科学省の分析(令和2年度)では、子どもの頃の自然体験は自尊感情や外向性と、社会体験は学習への意欲と、文化的体験は自己肯定感や精神的な回復力と関連していることが示されています。

さらに、国立青少年教育振興機構の調査では、社会経済的な背景の違いにかかわらず、自然体験が多い子どもほど自己肯定感が高く、自立的な行動習慣が身についている傾向が報告されています。家庭の条件が同じでも、自然に触れる量には差がつけられるということです。

自然体験に効果があるとされる理由の中心は、費用ではなく「五感」です。都会での生活で使う集中力は、意識して保ち続けなければならないぶん消耗しやすいと言われます。一方、光の揺れや風、水の音といった自然のなかの刺激には、努力しなくても自然と目や耳が向きます。だからこそ、張りつめていた注意がゆるみやすいのです。

イギリスの約2万人を対象とした調査(White ら, 2019)では、週に合計120分ほど自然のなかで過ごしている人ほど、健康や幸福感を良好と答える割合が高いことが報告されました。この120分は「一度に」ではなく「一週間の合計」でよく、短い時間の積み重ねでも届く水準です。日曜日に遠出しなくても、平日の帰り道に少しずつ足していけば到達します。

子どもの記憶に残るのは、料金の高い体験ではなく、においや手ざわりを伴って「感覚が動いた瞬間」なのです。

日常でできる5つの習慣

以上をふまえ、費用と時間をほとんどかけずにできることを5つ挙げます。

1. 近所の自然を、15分だけ五感で歩く
公園や川沿い、街路樹のある道でかまいません。歩くこと自体ではなく、「風、どんなにおいがする?」「この葉っぱ、さわるとどう?」と、感覚に向ける言葉をかけることが重要です。15分×週2回でも、季節がめぐる頃にはかなりの量になります。

2. 台所とお手伝いを、体験の場にする
野菜を洗う、卵を割る。台所は五感がいちばん多く動く場所です。国立青少年教育振興機構の調査でも、お手伝いを多くしている子どもほど自己肯定感や道徳観が高い傾向が示されています。「手伝わせる」のではなく、「お米を計るのはこの子の担当」と役割を渡すのがポイントです。

3. 寝る前の3分で、その日の出来事を言葉にする
体験は、したあとに語られることで残ります。親が「それでどうなったの?」「そのときどう思ったの?」と話を広げるように聞くと、子どもは出来事を順序立てて思い出し、そのときの気持ちに言葉をつけていきます。同じ一日でも、語られた一日のほうが子どものなかに残ります。旅行に行けなかった日でも、語る材料は必ずあります。

4. 月に一度、無料か低額の公的な場所を使う
図書館、児童館、公立博物館の無料開放日など、税金で用意されている体験の場は多数あります。動植物園や博物館の見学は、自己肯定感や精神的回復力と関連する「文化的体験」に含まれます。入場料の高さと効果は比例しません。

5. 何もしない時間を、予定表に残しておく
6歳児を対象とした研究(Barker ら, 2014)では、大人が管理していない自由な時間が多い子どもほど、自分で目標を立てて行動を組み立てる力が高いことが示されています。退屈は、能力が育つ前段階です。空白の時間はそのままにしておいてかまいません。

やらないほうがいいこと3つ

よかれと思ってやっていることが、逆効果になる場合もあります。

1. SNSで、ほかの家庭の夏休みを見に行く
SNSに投稿されるのは、その家庭の「一番よかった数時間」です。それを自分の家庭の日常全体と比べれば、見劣りするのは当たり前です。自分より恵まれて見える相手と比べる時間が増えるほど、気分は下がりやすくなります。そして親の落ち込みは、家庭の空気に直結します。見ない時間を決めるだけで、体験の量は変わらないのに、しんどさだけが減ります。

2. 体験のあとに、感想や学びを聞き出す
「今日は何を学んだ?」と聞きたくなりますが、評価されると子どもにとっては課題に変わります。もともと楽しんでやっていたことに評価や見返りがつくと、かえって内側からの意欲が下がってしまうことがあるのです。感想を求めるかわりに、親が先に「お母さんはあの水が冷たかったのが一番覚えてる」と自分の感想を言ってしまうほうが、会話はよく続きます。

3. 睡眠と親の余裕を削ってまで、詰め込む
早起きして遠出し、帰りが遅くなり、翌日は全員が寝不足で不機嫌。これでは、せっかくの体験そのものが嫌な記憶として残ってしまいます。親の消耗も同じで、疲れ切った状態は家庭内に伝わりやすく、体験の質を下げます。無理な遠出より、近所の公園に15分行ける日を年に何十回つくるほうが確実に積み上がります。

よくあるお悩み

Q. 周りの子は習い事をいくつもしています。焦ってしまいます。
A. 効果が示されているのは、体験の「数の多さ」ではなく、自然・社会・文化それぞれの体験があることです。習い事をやみくもに増やすより、種類の違う時間を少しずつ持つほうが理にかなっています。比べる対象を他の家庭ではなく、「去年のわが家」に置き換えてみてください。

Q. 自分自身がキャンプも旅行も苦手です。何をさせればいいですか?
A. 親自身に自然体験が少ないと、子どもと体験活動をすることに戸惑いを感じやすいというデータがあります。無理に苦手なことをする必要はありません。図書館、料理、散歩など、親が心地よくいられる場を選んだほうが長続きし、子どもにも良い影響を与えます。

Q. 一日中ゲームをしていて外に出たがりません。
A. 小学生なら「外に行こう」ではなく、「買い物に付き合って」など用事をつくるほうが動きます。急に引きこもるようになったり、睡眠や食事に変化がある場合は、興味の問題ではなく心の疲れが背景にあるかもしれません。その場合は、体験を増やす前にまず休ませることが優先です。

それでもつらさが続くときは

工夫をしてみても、子どもの話を聞くたびに気持ちが沈む。子どもの将来を思うと不安が止まらない。そうした状態が何週間も続いているときは、単なる体験の量の問題ではなくなっていることがあります。

親が自分を責め続けている状態は、子どもにとっても居心地のよいものではありません。「してあげられなかったこと」を数えるのをいったんやめて、いまの生活のなかで何ができているかを外から整理してもらうだけで、気持ちはずいぶん軽くなります。

ICカウンセリングでは、公認心理師・臨床心理士がお話をうかがっています。誰にも言えずに抱えていることがあれば、一度ご相談ください。

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