恋愛・結婚

同棲が「うまくいかない」カップルへ

3つのすれ違いを知って、ふたりの暮らしを整えていく

結婚の前に同棲をするのは、いまではめずらしいことではなくなりました。ところが、長く付き合ってから一緒に住み始めたのに、一年ほどで別れてしまった。そんな話を耳にすることがあります。この記事では、一緒に住むと初めて表れる3つのすれ違いと、その整え方を紹介します。
帰りが遅い日、夕飯を用意して待っていたのに「食べてきた」と言われる。休みの日は一緒に過ごすものだと思っていたら、相手はさっさと予定を入れている。ゴミをまとめるのも、冷蔵庫の中身を確認するのも、気づけばいつも自分。
20代から40代の、同棲を始めたばかりの方や新婚の方から、こうしたご相談をよく受けます。どれも一つひとつは小さな出来事です。けれど毎日のことなので、少しずつ積み重なり、やがて「この人とやっていけるのだろうか」という大きな不安に変わっていきます。
もう相手のことは十分に分かっているはずなのに、なぜうまくいかないのか。それは相手を知らなかったからではありません。一緒に住んでみないと分からない落とし穴が、暮らしの中に潜んでいるからです。

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近くにいるほど、ぶつかりやすくなる理由

心理学には「ヤマアラシのジレンマ」という言葉があります。哲学者ショーペンハウアーの寓話がもとになっており、精神分析家のベラックが人間関係の心理として紹介しました[注1]。寒い夜、ヤマアラシは温め合おうと身を寄せます。けれど近づきすぎると互いのトゲが刺さり、離れると寒くなる。近づいたり離れたりを繰り返しながら、ちょうどいい距離を探していくという話です。

別々に暮らしていたころは、会う日と会わない日があり、この距離が自然に保たれていました。同棲や結婚で一緒に住み始めると、その距離が一気に縮まります。相手を好きな気持ちは変わらないのに、トゲが刺さる場面が急に増える。一緒に住み始めて間もない時期にすれ違いが起きやすいのは、このためです。
つまり、うまくいかないのは二人の相性が悪いからではありません。新しい距離感に慣れるまでの、多くのカップルが通る時期だと考えてください。

一緒に住むと表れる3つのすれ違い

●すれ違い1:予定を「知らない」まま期待してしまう
別々に住んでいるとき、相手の予定をどこまで知っていたでしょうか。毎週会っているカップルでも、会わない日に相手が何時に起きて、誰とどこで過ごし、何時に帰ってくるかまでは、案外知らないものです。
一緒に住むと、そうはいきません。相手が出かけている間、自分は家にいます。夕飯を二人分つくろうかと考えれば、食べるのか食べないのかが気になります。自分が休みの日は、なんとなく二人で過ごすつもりになっている。そこに相手が何も言わずに予定を入れていると、がっかりし、ときには腹が立ちます。
ここで起きているのは、話し合っていないのに相手に期待し、その期待がずれて傷つくという流れです。しかも家にいる側には「待つ」という心理的な負担がかかります。負担が重なると「なんでもっと早く言ってくれないの?」と相手を責めたくなります。
言われた側はどうでしょうか。心理学では、人は自分の自由が制限されたと感じると、それを取り戻そうとする反発が起きると考えられており、これを「心理的リアクタンス」と呼びます[注2]。責められた側は束縛されているように感じ、かえって距離をとりたくなるのです。夫婦研究でも、一方が求めたり責めたりするほど他方が引いていき、それを見てさらに強く求める、という悪循環がよく知られています[注3]。
一緒に住み始めたばかりのころは、心の距離がとりにくく窮屈になり、物理的な距離を離したくなる。この悪循環が続いた先に、別れという選択があるのだと考えられます。

●すれ違い2:「名もなき家事」が不公平感を生む
家事というと、掃除、洗濯、料理を思い浮かべるかもしれません。けれど実際の暮らしには、名前のついていない家事がたくさんあります。家じゅうのゴミを集めて袋にまとめる、冷蔵庫の賞味期限を確認する、トイレットペーパーの残りに気づいて買い足す。一つひとつはほんの小さなことです。
一人暮らしのときは、当たり前に自分でやっていたはずです。それなのに二人になると、「なんで私が?」「いつも私ばかり」「仕事がこんなに忙しいのだから、相手がやってくれてもいいのに」と感じてしまいます。
これには心理学的な理由があります。夫婦それぞれに、家事などの日常の役割を自分と相手のどちらが多く担っているかを尋ねた研究では、多くの人が、相手の見積もりよりも自分の分担を多く見積もっていました[注4]。自分がやったことはよく覚えていても、相手がやったことは目に入りにくいからです。さらに、自分がやらないときは「忙しかったから」と状況のせいにし、相手がやらないときは「気が利かない人だから」と性格のせいにしやすい傾向も指摘されています。これは「行為者―観察者バイアス」と呼ばれる心の癖です[注5]。
加えて、名もなき家事の多くは「気づく」「覚えておく」「段取りを考える」という、目に見えない頭の仕事です。近年の研究でも、こうした見えない負担は本人にもパートナーにも気づかれにくく、一方に偏りやすいうえ、夫婦の衝突のもとになりやすいことが示されています[注6]。やっている本人はずっと疲れているのに、相手にはそれが見えていない。ここに不公平感が生まれます。

●すれ違い3:育った家庭の「当たり前」がぶつかる
タオルは毎回洗うのか、何度か使うのか。休日の朝はゆっくり寝ているものか、早く起きて動くものか。帰省は年に何回が普通か。こうしたことに、正解はありません。けれど多くの人は、自分の育った家庭のやり方を「普通」だと思っています。
家族療法では、どの家庭にも言葉にされていない「家族のルール」があると考えます[注7]。同棲や結婚は、異なるルールで育った二人が同じ家で暮らし始めることです。家族の発達段階を扱う理論では、この時期を「それぞれの実家との関係を見直しながら、二人の新しいやり方をつくっていく段階」と位置づけています[注8]。
厄介なのは、当たり前は本人にとって当たり前すぎて、口にされないことです。だから違いに気づいたとき、「非常識だ」「だらしない」と相手の人柄の問題に見えてしまいます。実際には、どちらが正しいかではなく、育った文化が違うだけということがほとんどです。

すれ違いを小さくするための工夫

●予定は「報告」ではなく「共有」する
共通のカレンダーアプリに書き込む、LINEでこまめに連絡する。当たり前のようですが、一人から二人になったのだと改めて心に留めて、意識して続けることが大切です。
このとき、予定の共有を相手を管理するためのものにしないことがポイントです。「夕飯がいるかどうかは夕方までに連絡する」のように、二人で決めた小さなルールにしておくと、どちらかが責める・責められる形になりにくくなります。
また、自分の期待は言葉にして伝えましょう。「土曜日は一緒に過ごしたいな」と先に言っておけば、相手は知らないうちに期待を裏切ることがなくなります。察してほしいという気持ちは、一緒に住むとかえってすれ違いのもとになります。

●名もなき家事は一度書き出し、厳密な平等は目指さない
まずは二人で、細かい家事まで一度書き出してみてください。「こんなにあったんだ」と見えるようになるだけで、相手への見方が変わることがよくあります。
そのうえで、きっちり半分ずつに分けることを目標にしないほうがうまくいきます。家事は、待ちきれないほうがどうしても多く引き受けることになります。そこで不公平だと数え始めると、イライラばかりが募ります。気がついたほうがやる。自分のほうが多くても「まあいっか」と受け流す、懐の深さを持つこと。その代わり、別の場面で相手に動いてもらえばいいのです。
そして、相手がやってくれたことには「ありがとう」を言葉にしてください。見えにくい家事ほど、気づいてもらえたという実感が、やる気と安心感につながります。

●「どちらが正しいか」ではなく「うちはどうするか」を決める
育った家庭の違いに気づいたら、どちらのやり方が正しいかを競うのではなく、「うちはどうしようか」と二人の新しいルールを決めていきましょう。
お互いの実家の話は、責め合う材料ではなく、話のネタにするくらいがちょうどいい距離です。「うちではこうだったんだよね」と笑いながら話せると、相手の行動の背景が見えてきて、腹が立つことも少なくなります。

やってはいけないこと

●「なんで」と責める
「なんで言ってくれないの?」「なんでいつも私なの?」という言い方は、相手を責める響きが強く、防衛的な反応を引き出します。夫婦研究で知られるゴットマンも、相手の人柄を否定するような批判は関係を損なう要因になると指摘しています[注9]。
代わりに「私は、待っている時間が少しさみしかった」のように、自分を主語にして気持ちを伝えてみてください。心理学では「アイメッセージ」と呼ばれる伝え方です[注10]。

●黙って我慢をためこむ
波風を立てたくなくて我慢を続けると、不満はなくなるのではなく蓄積されていきます。そしてある日、小さなきっかけで一気に噴き出します。小さいうちに、小さな声で伝えるほうが、結果として関係は穏やかに保てます。

●家事の回数を数える
「今週は私が五回、あなたは二回」と数え始めると、家事は二人の暮らしのためのものから、勝ち負けを決めるものに変わってしまいます。先ほどの研究のとおり、自分の貢献は多く見えるものです。数えるほど不満は増えていきます。

●相手の家族や育ちを否定する
「あなたの家はおかしい」という言葉は、相手の大切な人たちまで否定することになり、深く残ります。違いを話題にするときは、相手のやり方ではなく、自分がどう感じたかを伝えるにとどめましょう。

よくあるお悩み

Q. 予定を共有しようと言ったら、「束縛しないで」と言われました
A. 予定の共有が、監視されているように受け取られたのかもしれません。「あなたの行動を知りたい」ではなく、「夕飯の準備や休日の過ごし方を考えたいから」と、目的を具体的に伝えてみてください。共有する範囲を二人で決めておくと、窮屈さはかなり減ります。

Q. 家事の不満を伝えると、いつも喧嘩になります
A. 不満がたまってから伝えると、どうしても責める口調になりがちです。落ち着いているときに、名もなき家事を一緒に書き出すところから始めてみてください。責めるためではなく、暮らしを見直すための作業にすると、相手も参加しやすくなります。

Q. 同棲してから喧嘩が増えました。相性が悪いのでしょうか
A. 一緒に住み始めたばかりの時期にすれ違いが増えるのは、多くのカップルが経験することです。ゴットマンの研究でも、夫婦の対立の多くは、どちらかが折れて解決するものではなく、付き合い方を工夫しながら抱えていく性質のものだとされています[注11]。喧嘩があるかどうかより、話し合い方を二人で育てていけるかどうかのほうが、長い目で見て大切です。

それでもつらさが続くときは

話し合おうとしても、いつも同じところでこじれてしまう。一緒にいるのに寂しい。家に帰るのが憂うつで、眠りが浅い日が続いている。こうした状態が何週間も続いているときは、二人だけで抱えず、第三者の力を借りることも考えてみてください。
また、相手の言葉や態度が怖い、お金や交友関係を一方的に制限される、といった状況がある場合は、すれ違いの工夫よりも先に、専門の相談窓口につながることを優先してください。一人で我慢することは、解決策ではありません。
いま二人の間で何が起きているのか。どこまでが話し合いで調整できることなのか。それを整理するだけでも、気持ちはずいぶん軽くなります。ICカウンセリングでは、公認心理師・臨床心理士がお話をうかがっています。お一人でのご相談はもちろん、パートナーのことを誰にも話せずにいる方も、一度ご相談ください。

【参考文献】

  • [注1]「ヤマアラシのジレンマ」の寓話は、ショーペンハウアー『パレルガ・ウント・パラリポメナ』第2巻(1851年)に収められています。対人関係の心理を表す言葉としては、Bellak, L. (1970). The Porcupine Dilemma. Citadel Press. が広めました。なお、フロイトも『集団心理学と自我の分析』(1921年)でこの寓話を引用しています。
  • [注2]Brehm, J. W. (1966). A Theory of Psychological Reactance. Academic Press. 自由が脅かされたり奪われたりすると、それを回復しようとする動機づけが生じるとする理論です。
  • [注3]Christensen, A., & Heavey, C. L. (1990). Gender and social structure in the demand/withdraw pattern of marital conflict. Journal of Personality and Social Psychology, 59(1), 73–81. 一方が要求・批判し、他方が回避・沈黙するパターン(要求―回避パターン)を扱った代表的研究です。
  • [注4]Ross, M., & Sicoly, F. (1979). Egocentric biases in availability and attribution. Journal of Personality and Social Psychology, 37(3), 322–336. 37組の夫婦を含む5つの実験で、人は共同作業での自分の貢献を思い出しやすく、他者が認めるよりも大きな責任を自分に帰属させる傾向が示されました。
  • [注5]Jones, E. E., & Nisbett, R. E. (1972). The actor and the observer: Divergent perceptions of the causes of behavior. In E. E. Jones et al. (Eds.), Attribution: Perceiving the Causes of Behavior. General Learning Press. なお、Malle, B. F. (2006). Psychological Bulletin, 132(6), 895–919. のメタ分析では、この傾向は一般に考えられているより小さく、条件によって異なると報告されています。
  • [注6]Daminger, A. (2019). The cognitive dimension of household labor. American Sociological Review, 84(4), 609–633. 35組・70人への面接調査から、家事には「必要を予測する」「選択肢を探す」「決める」「進み具合を見届ける」という認知的な労働が含まれ、本人にも相手にも見えにくいため、夫婦の衝突のもとになりやすいことを示しました。
  • [注7]Jackson, D. D. (1965). Family rules: Marital quid pro quo. Archives of General Psychiatry, 12(6), 589–594. 家族や夫婦の関係には、明文化されていない暗黙のルールがあるとする家族療法の基礎的な考え方です。
  • [注8]Carter, B., & McGoldrick, M. (Eds.). (1989). The Changing Family Life Cycle: A Framework for Family Therapy (2nd ed.). Allyn & Bacon. 家族ライフサイクル論では、結婚による新しいカップルの形成期の課題として、夫婦という新しいシステムへのコミットメントと、拡大家族(実家)との関係の組み直しが挙げられています。
  • [注9]Gottman, J. M. (1994). What Predicts Divorce? The Relationship Between Marital Processes and Marital Outcomes. Lawrence Erlbaum Associates. 関係の破綻を予測する4つのコミュニケーション(批判・侮辱・自己防衛・逃避)の一つとして、相手の人格を責める「批判」が挙げられています。
  • [注10]Gordon, T. (1970). Parent Effectiveness Training. Peter H. Wyden.(邦訳『親業』)もとは親子関係のために提案された方法ですが、夫婦・パートナー間のコミュニケーションにも広く応用されています。
  • [注11]Gottman, J. M., & Silver, N. (1999). The Seven Principles for Making Marriage Work. Crown.(邦訳『結婚生活を成功させる七つの原則』)夫婦の対立の約7割は、解決するよりも付き合い続ける「永続的な問題」であるとしています。

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